漢方クリニックと漢方薬局。併設しているからこそできる「養神堂」の魅力を、医師である小林万寿夫と、薬剤師である小林正児が語りました。
左:小林正児(薬剤師) 右:小林万寿夫(医師)
── 漢方に興味を持ったきっかけを教えてください。
- 万寿夫:
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私たち兄弟は、もともと江戸時代の古きから幕府の医官であった家系なのです。菩提寺には医官の位である「法橋」の名を冠した墓碑が残っています。漢方の生薬を扱う父と薬剤師の母が営む漢方専門の薬局の、生薬の香りの中で育ちましたので、ごくあたりまえに家業を継いだわけです。
高校時代、進路を決める際も漢方を学びたいと思っていたのですが、そんなとき、父の知り合いの漢方医から「漢方の道に進むなら、医学部に行ってまず医師免許を取得するといい」とアドバイスを受け、杏林大学の医学部にすすみました。
とはいえ当時は、漢方は正式に医学部で学ぶ学問ではなかったんです。そこで卒業後は、大学の内科に籍を置き、内科医として働きながら、父から漢方を学びました。
- 正児:
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昭和30年代あたりは、日本で漢方を扱う医師は本当に少なかったんですよ。そんななか、父は著名な漢方医の知り合いが多くてね。子ども心に、「父はすごいなあ」と思っていました。私は医学部ではなく、薬学部に進みましたが、漢方については大学ではなく、父や父の知り合いの漢方医から学びましたね。
── 今は、漢方薬を処方してくれる病院も増えましたね。
- 万寿夫:
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ええ、ここ10年ほどでグンと増えました。でも、漢方薬だけを処方したり、漢方ならではの診療を行っているところはまだまだ少ないですね。
── あ、確かに風邪をひいたら、普通の診察を受けて、風邪薬と一緒に漢方薬を処方されるといった感じですよね。でも、どうしてそんな処方になるのでしょう?
- 万寿夫:
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漢方だけを専門にやっている漢方医が少ないからです。漢方というのは、診察もいわゆる一般的な診察とは異なり、とくに初診では、じっくり時間をかけて問診・脈診・腹診を行います。当クリニックの場合も、初診の患者さんに対しては、問診にとにかく時間をかけますから、1~2時間かかることも珍しくありません。一般的なクリニックでは、こんなに診察時間はとれませんからね。
── なぜそんなに時間がかかるのですか。
- 万寿夫:
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たとえば患者さんが頭痛を訴えて来院した場合、西洋医学では、頭痛に焦点を当てて診察します。症状をきいて、必要なら検査をして、鎮痛剤などを処方しますよね。ところが漢方の場合は、体がなぜ頭痛を感じる状態になっているかを考えます。どんな状態で痛むのか、天気は、状態は、季節は、気分は、生活習慣は、などなど、徹底して話を聞いて、頭痛ではなく、「患者さんのストーリー」を組み立てるわけです。
- 正児:
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漢方の世界では、「病名」はさほど重要なことではないんですね。ピンポイントではなく、患者さんひとり一人の体全体の状態を把握して、どのような漢方を使えばよいかを判断しますから。そのため、たとえ頭痛でも、一般的に「頭痛に効く」といわれている漢方を使うとは限りません。ところがそうなると、健康保険が使えないんです。
── えっ、それはどうしてなんですか。病院で漢方を処方されるときも、保険適用になっていると思うのですが。
養神堂オリジナル補陽食品「生命素」
- 正児:
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そこが保険適用のややこしいところなんですよ。保険で処方するには、「この症状にはこの薬」という細かい決まりがあって、そこに当てはまらないと保険の対象外になってしまうんです。
漢方は、いくつかの生薬を調合して患者さんの症状に合うものをお出しすることがもっとも大切なのですが、保険適用となると、調合の幅がとても狭くなるんです。そのためうちは、クリニックも薬局も、あえて自由診療にして、本当に患者さんに合うものを使っているんですよ。
また自由診療であれば、漢方と補陽食品を組み合わせた処方も可能です。補陽食品とは、いわばサプリメントのようなものですが、これらの効き目はバカにはできません。長年の経験と実績に基づいて、こうした処方ができることも、自由診療ならではの大きなメリットです。
── なるほど。患者側としては、保険診療で安く、と考えてしまいがちですが、漢方はもっと奥深いものなのですね。
本来の漢方診療で行われる「脈診」
- 万寿夫:
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また、問診以外の診察も大切です。漢方専門のクリニックですと、問診の他に、舌を診たり、脈を診たり、お腹の触診も行います。たとえば脈も、ただ単に脈を計っているのではなく、血管に触れたときの感触から、体全体の状態を確認しているんですよ。
西洋医学では、症状による治療のガイドラインというものがあり、それと検査を組み合わせて治療や薬の処方を決めます。しかし漢方は、決まり切ったガイドラインや検査に頼ることなく、先ほど言った「患者さんのストーリー」と漢方独自の診察から、患者さんの「証」をみたたて薬を処方します。
── となると、ふつうの内科などで、漢方専門の診察もせずに出る薬というのは、効き目という点では疑問も感じてしまいますね。
- 万寿夫:
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保険適応の処方ですと、あくまでも一般的な薬のサブ的な役割で、漢方を出していますからね。要するに、西洋薬でなかなか効果が出にくい部分を、漢方で補う、といったイメージでしょうか。ただ、最近は漢方を学んで治療に取り入れているドクターもたくさんいますので、それは別にマイナスではないんです。漢方の効果がそれだけ認識されてきた、という証拠でもあるわけですから。
ただ、正しく漢方で治療をするとなると、漢方ならではの診察で、「証」を把握すべきだと思います。
- 正児:
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たとえば風邪といえば葛根湯といった印象があるかと思いますが、葛根湯が効くのは、風邪の初期症状だけなんです。風邪も、人によって症状は異なりますし、最初は寒気と熱から始まっても、数日たつと咳が出るなど、日に日に症状の出方も違ってきますよね。本来の漢方は、その症状と体全体の状態に合わせて、生薬を使い分けます。ですから、風邪だからといって、1週間以上、葛根湯を続けるというのは、漢方本来の処方では、まず考えられないわけです。
- 万寿夫:
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だからこそ、漢方できちんと治したい、というのなら、やはり漢方ならではの診察をしっかり行っている、漢方の専門医にきちんと診てもらうことが大事なんですよ。
── こちらのクリニックには、漢方薬局が併設されていますが、そちらのメリットについてはいかがでしょう。
兄弟だからこそ、連携もスムーズ
- 万寿夫:
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薬剤師はもちろん診療は行いませんが、薬のスぺシャリストですから、そばにいると本当に心強いんですよ。ましてやうちの薬剤師は実兄ですから、何でも遠慮なく相談できます。
- 正児:
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他人同士ですと、どうしてもどちらの立場が上か下か、などといった、妙なしがらみが生じてしまいがちですが、うちは身内ですからね。お互いの専門性を活かしつつ、足りない部分をうまく補うことができていると思います。
- 万寿夫:
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また患者さんの立場に立ってみても、医者にかかるのは面倒だから薬局だけという使い方もできますしね。
- 正児:
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逆に、この症状なら漢方の専門医に診察してもらったほうがいい、というケースもあるわけです。そんなときもクリニックがあるのですぐに紹介できます。
- 万寿夫:
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薬局が1階、クリニックが2階ですから、連携もスムーズ。このような形態の漢方専門クリニックは珍しいと思いますが、患者さんにとってのメリットはとても大きいと思いますよ。
── 平成5年の開設なので、歴史も長いクリニックですが、患者さんの変化はありましたか。
- 万寿夫:
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開院してしばらくは、口コミの方がほとんどでしたが、今はネットで見て、という患者さんが増えましたね。
- 正児:
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漢方の効果が認識されてきましたから、ネットでいろいろ勉強される方も多くなりました。
うちは、女性の漢方にも力を入れていますので、とくに女性の方からの問い合わせが多いですね。女性には生理があり、また更年期など、体の変化を自分で把握しやすい傾向があるため、不定愁訴に効果の高い漢方への関心も高いのかもしれませんね。
── 最後に、改めて漢方の魅力を教えてください。
- 正児:
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生活習慣や働き方の変化、現代社会ならではのストレスの増加などによって、病気の形は大きく変化しています。たとえばひと昔前なら、「風邪なんて、温かくして一晩寝たら治る」といわれていたものですが、今は1カ月も風邪の症状が長引くなんてことがよくあります。また、検査をしても問題ないのに、胃腸の不快感が続いたり、病院に行くほどではないけれど、いつも肩や腰などが痛いし、体がだるい、といった複数の症状を抱えていらっしゃる方は、本当に多いと思います。
漢方は、ピンポイントではなく、体全体に作用しますので、こうした不定愁訴には、とても効果的ですし、体質改善にも力を発揮します。まさに現代人にはピッタリの薬ではないでしょうか。
- 万寿夫:
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体力回復、免疫力の向上にも、漢方はとても期待できる薬です。たとえば漢方には、糖尿病そのものを治す生薬はありませんが、漢方によって、免疫力を高めたり、体質を改善して、糖尿病を要因とする合併症を防ぐことは可能です。
さらに、抗がん剤治療の前や、治療中に、漢方を使用することで、がん治療にいい効果をもたらすこともあり、がん患者さんやご家族からの問い合わせも増えています。
漢方がなぜ効くのか、そのメカニズムは明確になっていない部分は多々ありますが、もともと漢方は、日本では江戸時代から活用されてきた伝統も実績もある治療法です。
これからも私たちは、漢方の本当のすばらしさを、しっかりと皆さまに発信していきたいと思っています。